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Cymruのお喋り

Cymruのお喋り

RS異聞記 4

「うわー」先頭を進んでいた小隊から悲鳴に近い叫び声が響いた。

冒険者の間ではギルチャと呼ばれる通信手段が点滅する。

”この先、進攻できません”

”どうした?!”

”扉があったのですが・・・向こうに・・・わぁっーーー”

”一度引けぇ!!!”小隊長の声が響く。

列の中ほどにいたルンは最前列に到着しようとしていた。

後ろからディオとCymruが必死に追っている。

ルンが目にしたものは・・・

決して狭くは無い部屋を埋め尽くすゾンビ。
凄まじい瘴気を放ち、こちらに向かってこようとしていた。

ある者は胴体だけ。
ある者は何かに押し潰されたかのようなひしゃげた姿。
腕が、足が、首が、あるべき場所にはない者・・・

正視に耐えないその姿。
彼らが呟く怨嗟の声、たちこめる臭気は、百戦錬磨の天使たちといえど、扉を通り、戦うことを躊躇わせた。

「この方々を攻撃してはなりません!」
大きくはないがよく通る声が響き渡った。

皆が一斉に視線を向けた先には、双眸に涙を湛えたCymruの姿。

「紅涙の女神官の名において、総ての方のために、心より祈りを捧げます」

鎧と盾をはずし武器を下ろし、神官姿となったCymruは、なんの躊躇いもなく扉を抜け、ゾンビたちの前に膝まづく。

「生きていらしてもほとんど死んだような方たちがいらっしゃるように、肉体は滅びても霊的には生きていらっしゃる方々がおられます。この方々の中にも・・・」

彼女が放つ賛美の輝きに、ゾンビたちは、後ずさりした。

「お目にかかれて光栄に存じます」
ポロポロと涙を流しながら、立ち上がり部屋の奥へ進むCymru。

「全員”紅涙の女神官”殿に唱和!」ルンは部下に指示すると自分もビショへと変身し、Cymruに続き部屋に入る。。

「ルン様、ありがとうございます・・・ブレッシングをお持ちの方々は、あの皆様に祝福を」

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おそるおそるではあるが二人に続き、部屋の中へ進むものが現れ始めた。

「ご自分の死を知らずに彷徨われていらっしゃるあなたのために祈ります」
涙を流し続けながら何度も何度も詠唱しては賛美するCymru。

天使たちは次々にビショへ変身、祈り、祈祷、敬拝、賛美し、ゾンビたちにブレスを放つ。
その優しく暖かい光が、苦悶の表情をしたゾンビたちを包み込み煌く。

と、真っ黒なゾンビの群れの中にポツリポツリと白い骸骨が現れ、歯が抜けるように床に崩れはじめた。

その後に浮かび上がる小さな光の粒。
ゾンビたちの頭上をくるくると回り始める。

「予期せぬ死により
誰かを許していない痛みを負うたまま彷徨えるあなたのために祈ります」

今は動きを止め、怨嗟の声も小さくなり、ゆらゆらと揺らめいているゾンビたち。
Cymruの詠唱が響くたび、祈りをこめたブレスの光が届くたび、
ポツリポツリと骸骨と化し、静かに崩れ落ち、
床に届くか届かぬうちに小さな光の粒となり、ゾンビたちの上に輝き始める。
それらはやがて、周囲から放たれるブレスの光と融合し始めた。

「予期せぬ死により
誰かに許してもらっていない悲しみを負うたまま彷徨えるあなたのために祈ります」

その場を覆っていた瘴気がどんどん弱くなっていく。
最初に比べるとその数は減り、おどろおどろしい怨嗟の声はもう聞こえなかった。

「迷える魂を救う力・・・高位神官とはこれほどの力を持つのか」

それでも尚、ゾンビのままでいる者が、Cymruに近づいてゆく。

「Cymru殿!」ルンが飛び出してくる。

「ご心配には及びませんわ」にっこりと微笑む。

Cymruは立ち上がると、自ら近寄り、ゾンビを抱きしめた。

「人には二度の死がございます。一度は肉体の死。もう一度は人から忘れ去られるという死。
あなたは忘れられてなどおりません」

Cymruの言葉とともに彼女の瞳から落ちた涙が床に届くと、そのゾンビは消え、淡い光が宙に漂う。

もう一度賛美し、次のゾンビの手をとる。

「お子様は無事にお生まれになりましたわ。可愛らしい女の子でいらっしゃいます。
・・・女の子ならジェイド様というお名前に?良いお名前でございますわね」
ポロポロと涙を流しながらも微笑むCymru。

またひとつ淡い光の粒が生まれる。

「あなたは間違ってなどおられませんわ・・・お話して下さってありがとうございます」
次のゾンビの頬に口づける。

そしてまたひとつ浮かぶ光の粒。

「おふたりの永遠の愛を、大いなる力の名により祝福いたします。
おふたりは今、永遠(とわ)に夫婦となられました・・・さあ誓いのキスを」

ゾンビ2体が向き合ったとき、その場にいたものには、そこに美しく着飾った新郎新婦の姿が見えた。

交わされるくちづけ。
周りから拍手と歓声が上がった。

2人はにっこりと微笑み抱擁したまま美しい2粒の光となり、融合した。

すでに己がゾンビのような姿になりながら、Cymruは賛美し、泣くことを止めようとはしなかった。

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今や部屋を埋め尽くすように浮かぶ光の粒は、一点に向かって移動し始めた。

その光が向かった先は・・・

「あれはなんだ!」天使の1人が叫んだ。

ゾンビの一団が部屋を覆っていた間は見えなかった奥の壁の一部が、透け始めている。
微かに浮かび上がる白い光輪。光の粒は次々に輪に加わり、光輪はその輝きと大きさを増してゆく。

ゾンビたちは2つに分かれていた。

片方は、ただひたすらにCymruの許へ向かう。

そしてもう片方は、
彼女の詠唱から耳をふさぎ、ブレスの光に身をよじりながら恨めしそうにこちらを睨み、
じりじりと後退をし、透け始めた場所と少し離れたところに生じた、黒く変色した壁にへばりつきはじめる。


恨めしいぃ...憎らしいぃ...

ドラゴンの命・・・よこせぇ...よこせぇぇえ...

オレだけわぁ...生き返ってぇぇ...やるぅ...

私にもぅ...よこせぇ...命...よこせぇ...よこせぇぇえ...

怨みぃ...はらさずにぃ...いられるかぁ...



「壁の向こうに行く気か?」

そのゾンビたちを見つめ、悲しそうに呟くCymru。
「私が至らぬばかりにお救いできない皆様・・・申し訳ございません」

「なるほど・・・ふう様がおっしゃったもうひとつの空間か・・・
私欲と我の塊めが!そうまでして、自分だけは生き返ろうというのか」

「向こう側には、こちらにと思って下さる方々もいらっしゃいます」

「総員、あの光に向かって祈れ。賛美の無いものは郷愁でもかまわん。
なんとしてもあちらとここを繋げ、カムロ、マートンを救出する!」

天使の姿に戻ったルンは指示を終え振り返りざま、
蠢いている黒い染みに渾身のブラッディウィングを叩き込んだ。

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灰色の点が動きを止め、霧のように部屋にたちこめた後、消えた。

「おっ、いい感じだ。オレたちラッキー♪」マートンは指を鳴らす。

が、次の瞬間。

足元がぐにゃりと揺れ、天井と床が交じり合うような違和感が襲ってきた。

気がつけばそこは何やら重苦しい薄闇の中。

「怖いよぉ・・・」泣き出す女の子。

カムロは女の子の手にキャンディーを握らせる。
ペロペロすれば怖くないじょ(=^‥^=)b

「いや、そういう状況じゃないと思うが^^;;;」

「うん」素直に頷く女の子。

「ヲイ・・・・」
手を繋いで仲良くペロペロしている2人に思わず溜息をついたマートン。
「カムロ、お前凄いな」

σ(=^‥^=)v エライじょ♪

「ああ、エライ、本当にエライぞ」口笛を吹いてウィズに変身。
全員に補助をかけると元に戻り、庇うように右手を伸ばし、左手で首の指輪をまさぐる。

両側から何か強い力に引っ張られている感覚があった。
床と思しき場所からポツリポツリと浮かび上がる泡のようなものが、途中ではじけ、ぱっと散っては部屋の中にもやもやと漂い始める。

「あっ」女の子が何かに気づき、手にしていた飴を突き出した。
「あっちにディオちゃんいるよ」

その子が指差す先に小さな光の輪が出来始めていた。

「出口?・・・か」

首に下げた指輪が、答えるように暖かくなった。

「よっしゃ!行くぞ!!!」

が、出来始めていたのは光の輪だけではなかった。
上方にドス黒い染みのようなものが広がり、みるみる大きくなっていく。

「あたし、あっちがいい♪」光の輪の方に走り出す女の子。

その声が合図であったように、ばらばらに漂っていたもやもやから何かが飛び出し、
光の輪に向かうものと黒い染みに向かうものに分かれた。

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裏切る気かぁ...

戻れぇ...

逃がしはぁ...せぬぞぉ...


殺気を含んだ怒号が響いた。

黒い染みから雷が降り注ぎ、女の子と光の輪を目指すもやもやとしたものを狙う。

その攻撃を爪で切り裂き、牙で噛み切るマートン。


邪魔...

じゃま...だねぇ...


マートンに向かい放たれるフレイムストーム。

素早くそれを避けるマートンの後ろで、光の輪に辿り着く前に焼かれたもやもやたちの、微かな悲鳴が響く。

部屋には二つの輪が出来あがっていた。
透けるように輝く白い輪。
ぬめるように光る黒い染み。

こちら側からは白い輪に向かい殺到する何かがおり、向こう側からはジワジワと染み出しては宙にはじける黒い粒が、染みと融合してゆく。

今や黒い染みは、むき出しの殺意を振り撒きながら、いくつもの黒い塊を吐き出し、白い輪に逃れようとするものを攻撃していた。

「あたし、行くね^^」女の子は微笑むと白い輪に飛び込もうとした。
「あれ、カムロとお兄ちゃんは?」小首をかしげて立ち止まる。

「いいから、先にいけ、すぐ行く」そちらを向く余裕はない。
「カムロ、なにぐずぐずしてるんだ」途中で立ち止まってしまったカムロにマートンが叫んだ。

(=^‥^=)σ みっけだじょ♪

指差す先に、黒い塊に行く手を阻まれている小さなもやもやがいた。

「・・・お前の仲間か?」

頷くカムロ。

「よし、助けるぞ」迷うことなく叫ぶとマートンはウィズに変身。
自分に支援をかけなおし、元に戻る。

「お前はここにいろ」

プルプルと首を振るカムロ。
と、飛んできた火の玉がカムロをかすった。

σ(=^;;^=) あっちっちだじょ;;

「それみろ・・・オレには攻撃はあたらねえ」
まるでマートンを避けるかのように逸れていく火の玉、イカヅチを見て、カムロも従わざるをえない。

(=^‥^=)σすごいじょ♪

「だろ♪」マートンはにっこり微笑むとカムロを覆うように立ち、牙をはずした。
「オレのエンチャじゃ、あいつらにはほとんど効かない。でもお前の炎なら・・・」

カムロはコクンと頷くと牙を包むように炎を浴びせた。

「あり♪・・・あちち」辛いものでも食べたかのように、息を吐く。
「この指輪、つけてろ。あの婆ぁの運つきだ」首からはずしてカムロにかけてやりながら、マートンはカムロを抱きしめた。「ありがとな」
ゆっくりと立ち上がり、カムロの前に仁王立ちになったマートンは、両手を広げ爪を立てた。「この爪にも頼む、やけどしない程度にな♪」

後ろから指一本一本を包むように細く炎をあてるカムロ。

「あり~。じゃ、ちょっくら行ってくる」

女の子はカムロに駆け寄り、その手を引くと、光の輪の近くに連れて行った。

その様子を確認したマートンは、女の子に微笑みかけてから、軽やかに飛翔し、黒い塊に爪をたてる。
一撃で切り刻まれ、後ろにまわったそれを体を横にして、牙でくらいつく。

行く手を阻んでいた黒い塊がマートンの動きに釣られ移動した瞬間、小さなもやもやは壁に向かって殺到した。

もやもやが白い輪に到達する。
ふっと吸い込まれる瞬間、はじけた赤く光る粒。
すっ~とカムロに融合した。

(=^‥^=)b もういないじょ♪

「よし」
カムロたちの待つ場所に戻ろうとした瞬間、犬歯の形になっていた黒いサイコロが砕け散る。
と同時に、牙と爪に攻撃があたり吹っ飛んだ。

”まじやべぇってことか・・・”

全身の毛が逆立つ。
マートンはいつの間にか歯をむき出して唸っていた。

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その様子に、慌ててマートンの方に駆け寄ろうとするカムロと女の子。

「来るな!」2人の足が止まった。

「とっとと逃げろ」マートンは叫んだ。

”もうワンコじゃ戦えねぇ・・・ウィズでなんとかするにしても・・・鞄の中のPOTは?・・あと青15赤5・・・か”

ウィザードに変身すると、マートンの体力は著しく低下する。

”ワンコのままならともかく、ウィズで直撃食らったら・・・”

必死で手招きするカムロ。

”大丈夫、オレは運犬マートン様だ”

大きく息を吸い背中を丸めるように俯くと、両の手を広げ咆哮した。
ウィザードへの変身、青、赤のPOTを飲む。

”自分にかける分はないっと♪”

カムロたちに支援をかけなおし、2人を狙っていた黒い塊にライトニングサンダーを叩き込む。

”残り青5赤3か・・・”

「何ぼやぼやしてんだ、はやく行け!!!」

首を振るカムロ。

マートンの横をかすめ、女の子の近くに火の玉が落ちた。

「怖いよぉ~」

泣き出した女の子にアスヒをかけ、マートンは微笑んだ。
「カムロはエライから、この子、護れるよな」

視線が合ったカムロに親指を立てて見せる。
カムロは小さな肩を震わせ頷くと、しゃがみこんでしまった女の子の手を引き、白い輪に向かった。

”POT切れ♪”マートンは鞄を放り投げる。

杖を握り締め、素早く振る。
赤い勾玉をそっと撫でてから、ふぅっ~と息を吐き、それを高く掲げた。
「氷柱よ、彼らを守る壁となれ!アイススタラグマイト」

まさに、壁と呼ぶにふさわしい巨大な氷柱が現れ、カムロたちに向かい放たれた攻撃を防ぐ。

カムロの気配が・・・
消えた。

”さっすがオレ様、あいつら逃がしたぜ♪”

勾玉の形となっていた赤いサイコロが杖ごと砕け散った。

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白く輝く輪から出てきたのは小さな骸骨を連れたカムロ。

「カムロ!」
「カムロ殿!」

ディオが顔をくしゃくしゃにしてカムロに飛びついた。
「おかえり」

(=^‥^=)b ただ~だじょ♪

「ディオちゃん見っけ♪」嬉しそうに指をさす小さな骸骨。

「あなた・・・もしかして」

Cymruはそっと骸骨の横に膝まづいた。「ごきげんよう、ジェイド様」

「それなあに?」

「あなたのお名前でございます」

「私のお名前?」

「はい^^」Cymruは骸骨を抱き上げると赤ん坊をあやすようにそっと揺らした。

「わ~い、私、ジェイドっていうんだ。お名前あるんだ♪」

「たくさん遊ばれましたわね^^」

「うん♪」元気に返事をするとジェイドも淡い光となって宙に浮いた。
光の輪から2つの粒が飛び出し、ジェイドを迎える。

”ディオちゃん、カムロまたね、バイバイ”

まるで蛍のようにディオたちの周りを飛んでから、3つの光は壁の輪に吸い込まれていった。

「・・・マートンお兄ちゃんは?」ディオがキョロキョロと見回す。

と、カムロの首に下がっていた指輪がゆっくりと浮き上がり、部屋の中央へ移動し、そこから白い光があふれ出した。


指輪から噴水のように立ちのぼる光に映し出されたのは、巨大な氷柱の上に立つウィザードの姿。

「なんだあの氷柱は・・・ありえん」ルンが唸った。

「マートンお兄ちゃん!」
光に駆け寄ったディオが手を伸ばすが、虚しく空をきる。

「何故、ウィズのお姿に・・・?」Cymruが呟いた次の瞬間、マートンの体を雷光が貫いた。

その場が凍りつく。

ディオの悲鳴が響き渡った。

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氷柱から真っ逆さまに落ちながら、マートンは微笑んでいた。
受けたはずの攻撃の痛みはなかった。

”前もあったよな・・・カムロの馬鹿が・・・
オレの氷柱溶かしやがって・・・危うく死にかけたこと・・・”

養父母の顔、Cymruの泣き顔、カムロのとぼけた顔、ディオのはじけるような笑顔、ルンの精悍な横顔、
そして・・・不本意ではあったが、いかにも楽しそうなふうの顔が浮かんだ。

”って・・・これで、オレ、あの婆ぁの借金踏み倒せるぜぃ~~~婆ぁ、ざま~みろ♪”

ゆっくりと目を閉じたマートンの中に流れてきたメロディ。


♪どんどん大きな輪になって 波紋があなたへ続いてる


”この歌・・・”マートンは目を開けた。

加速しながら落ちていたマートンの体が一瞬
フワリと浮かび上がった。


♪ぱたっこよ 私の想い伝えておくれ


”・・・あんたたち・・・”

両側から彼を支えているのはがっしりとしたワンコと
穏やかな笑みを湛えたウィズ。

真っ逆さまに落ちていたマートンは、
今はまるでベットで眠っているかのように横たわった体勢のまま、ゆっくりと落下していった。

”しかも・・・親の迎えつきだぜ・・・オレって本当にラッキー~~~♪”

とびっきりの笑顔を湛えたマートンを、閃光が包んだ。

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「そんな・・・」両手で口を押さえ嗚咽するCymru。

高位神官であれば、対象の肉体が存在すれば100%復活させることが出来る。

だが・・・

中に入ることも、コールすることも叶わぬ閉ざされた空間で倒れた者を、助ける術はない。

指輪の光が弱くなり・・・

「マートン様!!!」

Cymruの絶叫とともに砕け散った。


微かな振動・・・

”ふう様がお倒れになりました”悲鳴に近い侍女頭からの報告。

崩壊が始まっていた。

「逃げなきゃだめだじょ」カムロが叫んだ。「マーがそう言ったじょ!!!」

はっとしたようにカムロを見つめるCymru。

「総員退避!」ルンの号令で隊員たちは、一斉に天使の姿に戻った。

次々に開くタウンポータル。エバキュで移動するものもいた。

「ディオ様、カムロも早く!」
ルンは直属の精鋭部隊以外の退避を確認すると叫んだ。

「いえ、ディオ様とカムロは私が・・・助けて下さったマートン様のためにも最後まで見届けます」
Cymruは天使に変身すると二人とPTを組み、ダメルへとエバキュ、コールした。


遺跡の向こうに蜃気楼のように浮かぶ伽藍。
それが、まるで巨大なナメクジが体をくねるように、伸縮を繰り返しながらどす黒い塊へと姿を変えていく。

空の一角に黒い雲が現れ、見る間に天空を覆いつくすと、モリネルタワーと呼ばれる塔のある方角から、赤と黄の多肢生物のようなものが飛来し、のた打ち回っている黒い塊を雲の中へ引きずり込んだ。

と、次の瞬間。

そこには青く澄んだ空が広がっているばかりであった。


ルンと精鋭部隊が見守る中、カムロとディオ、それにCymruは、しっかりと互いの手を握り締め立ち尽くしていた。

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邸内で、今動ける総ての姫・リトルが集結していた。

「準備はいいか?」エゥリンの視線の先は内陣。
「このたびの作戦には、お邸の存亡がかかっている。皆のもの、心してかかれ!」

緊張しきった面々がゴクリと唾を飲み込む音が、聞こえてきそうであった。

「おしゃべり大作戦開始ぃ!!!」

ウサギ変身で内陣に飛び出した数十人の姫がいっせいにおしゃべりを始める。

ほぼ壊滅状態ながら内陣に残っていた敵と、まだ戦っていた傭兵たちの動きが止まる。

全員、熟睡状態。

「いまだ、あの2人を捕らえろ!!!」

エゥリンの絶叫と共に天使たちから放たれるポールドパーソン。
リトルたちは一斉にラビットラッシュ。

敵は放置。目標は言わずと知れた・・・

「いけぇ~~~!!!!」手に手に縄を持ち飛びかかる。

今や廃墟と化した内陣に、蓑虫のようにぐるぐる巻きに縛り上げられ、さるぐつわをかまされた、ランサーとウィズが転がった。

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ふうは目覚めた後も部屋から出てはこなかった。

「我はなんと無力な・・・」ふうを包む絶望感。

ダメルで得た力を使い、「赤い悪魔」が何かを復活させたらしいことをふうは感じていた。

”アイノ・・・”水晶球に浮かんだのはこの3文字のみ。

部屋に届けられる報告に「レッドアイ」と呼ばれる組織に関するものが急増していた。

使い手の戦闘能力とは関係なく、エバキュやタウンポータルで、ダメルに自由に出入りできるようになっていた。

何も解決してはいない・・・
ふうは両手で顔を覆い声をたてずに泣いていた。


”よっ、婆ぁ・・・”部屋に満ちる暖かな気。

振り返るとワンコとウィザードに挟まれマートンが立っていた。

”あんたのおかげで、すげえたくさんの人が、救われたって礼言ってたぜ。
婆ぁがいなけりゃみんな、何かの餌になっちまってたんだってさ。
オレもだけど・・・”頭をかきながら両親を交互に見る。
”ありがとな。オレって本当にラッキー♪”
両側の2人も丁寧にお辞儀をした。

”じゃ、オレたち行くわ。婆ぁも達者でな♪”

互いに見つめあい微笑みあいながら3人は消えた。

「泣いている場合ではないようじゃ」ふうは何度も深呼吸し、立ち上がった。
「誰かおるか?」

「はい」ころがるように侍女頭が入ってくる。
「お館様・・・」いつもは冷静な彼女が、顔をくしゃくしゃにしてふうに抱きついた。

「心配をかけたのう」その頭を優しく撫でながらふうは微笑んだ。
「お茶の支度をしてたもれ」

「はい!」

天空邸はにわかに活気を取り戻した。

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「で、立替総額は?」渋面のエゥリンは執務机に両肘をつき顎の下で手を組んでいる。

部屋の中央に転がっているのは、蓑虫風冒険者×2

「はい、イスティス=カイサー分約1800万。ダックス=クロイツフェルト分約1600万となっております」

エゥリンは溜息をついた。「お館様のご厚情で、今回の働きに免じ、この邸の損害分は不問、感謝しろ」

もがもがふがふがと動く蓑虫たち。

「イスティス=カイサー、ダックス=クロイツフェルト、それぞれ約束の報酬1000万を引いた800万、600万の借用書にサインののち、地上にお送りする。よいな」

先程の倍速でもがふがと動く蓑虫たち。

「襲ってきた敵より、傭兵にここまで破壊されるとは・・・」
エゥリンはもういちど溜息をつくと、何かいいたそうに動いている蓑虫たちを睨みつけてから部屋を後にした。

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「ディオ様、お靴が・・・」

ディオは踊るのを止めずにニッコリ微笑んだ。
白い靴には少々くたびれたような黒ずんだ靴紐・・・
そう、マートンが指輪を下げるために使ったあの靴紐が、結ばれていた。

カムロは豚骨を見ると、ちょっと寂しそうな顔をする。

Cymruは信者たちを前に説教をする。
「人には二度の死がございます。一度は肉体の死。もう一度は人から忘れ去られるという死。
大切な方を亡くされてもその方を想うあなたがいらっしゃる限り、その方はあなたと共にあるのです。
祈りましょう、皆様」

レッドストーンの謎は何も解明されてはいない。
だが、その謎が明らかになる日が来た時、この世界が絶望に包まれぬよう願い、戦う者たちがいる。

彼らは知っていた。
それぞれが望む未来を掴むため、進むしかないのだと。
立ち止まることは許されないと。

「皆様に素晴らしい未来が訪れることを心より祈ります。大いなる力はいつも皆様と共に」

「また神官とともに」

「参りましょう、祈りのうちに・・・」

集会を終え、教会を後にする人々を微笑をたたえ見送ると、Cymruは低下系抵抗付のレザリンを指にはめたまま握り締め、いつものように長い祈りを捧げた。


「おい寝癖」ドスのきいた声が響く。
「う・・・な、なんだ」
「いくぞ」


「ぶはっ、また、やり過ぎたぁ~」
「・・・働けば働くほど借金増えるってどうよ?!」


それぞれが望む未来の実現は果てしなく遠い・・・(涙目)


                        RS異聞記 -完-













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